7月9日説教「夢を解き明かすヨセフ」

2023年7月9日(日) 秋田教会主日礼拝説教(駒井利則牧師)

聖 書:創世記40章1~23節

    コリントの信徒への手紙二4章7~18節

説教題:「夢を解き明かすヨセフ」

 創世記37章から「ヨセフ物語」が始まります。これは創世記の最後50章まで続きます。ヨセフは族長ヤコブ、すなわちイスラエルの12人の子どもの11番目に生まれた子です。彼は父ヤコブが年取ってから生まれた子であり、しかも愛する妻ラケルにようやくにして与えられた子でしたから、ヤコブはことさらに彼をかわいがり、他の子どもたちの中で特別扱いをして育てました。

 あるとき、ヨセフは夢を見ました。その夢で、兄たちがみんな自分の周りに集まり、自分の前にひれ伏していたと話しました。また別の夢で、父と母と11人の兄弟みんなが自分の前でひれ伏していたと話しました。これは何とも傲慢で、わがままで独りよがりな夢の内容です。父ヤコブはヨセフを叱り、兄たちはいよいよ彼を憎むようになったのは当然でした。ある日、兄たちは羊の放牧で家から遠く放れていたとき、ヨセフをエジプトに向かう商人に売り飛ばしました。しかし、父にはヨセフは野獣に食い殺されたと報告しました。以上が37章のあらすじです。

 39章では、ヨセフがエジプトの宮廷の役人ポティファルの家で奴隷として働いていたことが語られます。39章2節には、「主がヨセフと共におられたので、彼はうまく事を運んだ」と書かれています。同じような主なる神の導きについて、3節、4節、また21節、23節にも繰り返されています。兄たちの憎しみをかい、エジプトに売られ、奴隷となったヨセフでしたが、そのエジプトにあっても、神は常にヨセフと共におられ、彼の道を導かれたことが強調されています。

神はイスラエルの約束の地カナンだけでなく、異教の地、奴隷の地であるエジプトにあっても、ご自身が選ばれた民の一人をお忘れにはなりません。このことは、やがて400年以上もの時を経て、イスラエルの民をエジプトの奴隷の家から導き出される出エジプトの出来事を用意しているように思われます。

 ヨセフはポティファルの家で全財産の管理まで任せられるほどの信頼を得ていましたが、ある時彼の妻の策略によって無実の罪をきせられ、投獄されてしまいます。しかし、主なる神は獄につながれたヨセフをお見捨てにはなりませんでした。【39章21~23節】。かつて、兄たちによってエジプトに売り呼ばされたヨセフ、そして今またエジプトで獄に捕らわれの身となっているヨセフを、神はお用いになって、ご自身の救いのご計画をさらに進められるのです。

 次の40章では、夢を解くヨセフのことが語られます。41章でも、エジプトの王ファラオの夢を解くヨセフのことが語られます。きょうはこの2章から、夢を解き明かすヨセフについて学んでいくことにします。

 ヨセフがつながれていた牢獄に、エジプト王の給仕役の長と料理役の長が一緒に投獄されることになり、ある夜に二人とも同じ夢を見ました。その夢の不吉さにゆううつな顔をしている二人を見たヨセフが、彼らに尋ねます。【6~8節】。

ヨセフは二人の囚人仲間の顔色の変化に気づいています。今まではいつも自分が中心で、自分のことだけを気にして生きてきたヨセフでしたが、一人異教の地エジプトで労苦を重ね、少しずつ他者へと目が開かれていったのかもしれません。他者の心が理解できるように神によって変えられていったのでしょう。

夢を解き明かすことは古代エジプト時代では一つの学問でした。夢解きに関する多くの文献が残っているそうです。この二人の給仕役と料理役の長も、自分たちが見た不吉な夢の解き明かしを依頼すべき学者がたくさんいたと思われますが、ここは牢獄ですからそれも自由にできません。

 その時、ヨセフが発言します。「夢の解き明かしをなさるのはイスラエルの主なる神です。どうぞわたしにその夢を話してください。神からの知恵を与えられているわたしが解き明かしましょう」と。ここには、エジプトで重んじられていた夢解きの学問に対する軽蔑が含まれているのかもしれません。ヨセフの発言の意味はこうです。どんなに優れた知恵であっても、それは人間の限界ある能力によるものに過ぎない。イスラエルの神は人間の能力をはるかに超えて、未来に起こるべきことをすでに今見ておられ、あるいはまた、ご自身の計画を確かに実現に至らせる全能の力を持っておられる。そして、その夢解きの知恵を、選ばれた民であり、神の僕(しもべ)であるこの自分に霊的な賜物として授けてくださっておられる。ヨセフはそのように語るのです。

 聖書では、夢は神の啓示の手段の一つです。神は人間が寝ている間に、夢でご自身のみ心を、ご計画をお語りになります。ヨセフは兄たちから「あの夢見る者」と言われ、からかわれていましたが、彼が見た二つの夢、すなわち11人の兄弟たちと両親までもが自分の前にひれ伏すようになるという夢は、傲慢でわがままなヨセフの独りよがりの夢物語というのではなく、確かにそこに主なる神の隠されたご計画があったのであり、そのことが実際に創世記の終わりで実現するようになるということを、わたしたちはやがて読むようになるでしょう。

 ヨセフは神から与えられた知恵によって二人の夢を解き明かします。給仕役の長の夢は、三日後に彼がファラオのゆるしによって再び元の職務に戻されるという意味です。料理役の長の夢は、三日後に彼はファラオによって処刑され、木にかけられて、鳥がその肉をついばむという意味です。そして、三日後のファラオの誕生日には、実際にその二つのことが起こったと書かれています。

 ヨセフの夢解きがそのとおりになったので、釈放された給仕役の長がヨセフのことを王に執り成して、ユセフを牢から解放することを期待していたヨセフでしたが、給仕役の長はヨセフのことを忘れてしまったので、ヨセフはなおしばらく投獄されたままで、41章へと続いていきます。

41章でも、わたしたちはイスラエルの神、族長たちの神は、その後2年間の獄中のヨセフを決してお忘れにはならなかった、エジプト王ファラオの前に立つヨセフを絶えず支え、導かれたということを何度も確認することになるでしょう。給仕役の長がヨセフのことを忘れていたという事実が、かえってヨセフをエジプト王ファラオの前で神から与えられた知恵を示すきっかけとなるのです。

 2年後に、ファラオは不吉な二つの夢を見ました。一つは、良く肥えた七頭の雌牛がナイル川から上がってくると、その後に上がってきた醜い、やせ細った七頭の雌牛がそれを全部食べ尽くしたという夢でした。王がすぐ続けてみた夢は、良く実った七つの穂が、そのあとから出てきた実が入っていない干からびた七つの穂によってのみ込まれてしまったという、これもまた不吉な夢でした。

 不安に思った王は、エジプト中の魔術師や賢者を呼び集めて、夢の解き明かしをさせましたが、だれも解き明かすことができる者はいませんでした。その時になって、給仕役の長が2年前に牢獄で自分の夢を解いてもらったヨセフのことを思い出し、そのことを王に申し出ました。そこで、王は獄中からヨセフを呼び寄せることになりました。

 【14~16節】。16節のヨセフの言葉は40章8節の言葉を思い起こさせます。夢を解く知恵をヨセフにお与えくださるのは主なる神です。ヨセフはその神に仕える僕です。ヨセフはエジプト王ファラオの前でも、イスラエルの主なる神の証し人として立っています。自分自身はその主なる神の仕え人、僕であるにすぎないことを告白します。同じようなヨセフの信仰は、【25節】、【28節】、そして【32節】でも告白されています。ファラオとその国の歴史のすべてを支配し、導いておられるのは主なる神です。だれもそれに逆らうことも、そこから逃れることもできません。これがヨセフの信仰です。

 ヨセフはかつて父の寵愛を受けて、わがままで高慢な子どもに育ちました。兄たちからは憎まれました。でも、エジプトに売られ、そこで奴隷として仕え、また2年以上もの長い投獄生活を強いられ、そのような試練の中で、ヨセフは信仰の訓練を受けたのだと思います。異教の地にあっても、族長アブラハム、イサク、ヤコブが信じた主なる神を、ヨセフは信じ続けました。

 さて、ヨセフの知恵はファラオの夢を解くことにとどまらず、神がこれから計画しておられることに対する備えをする知恵にまで及びました。ファラオの夢は、7年間の大豊作と、その後の7年間の飢饉を予告しているとヨセフは語ります。この神の決定はだれにも変更できません。そこで、ヨセフは王に提案します。7年間の大豊作の期間に、収穫物の五分の一を国民から徴収して倉庫に蓄えさせ、その後の7年間の飢饉にあらかじめ備えておくようにと進言します。

 ヨセフのこの提案を聞いた王は、彼の知恵に感心し、ヨセフをエジプト全土の宰相、すなわち総理大臣に任命しました。【37~42節】。エジプト王ファラオがイスラエルの神についてこのように告白することは全くの驚きと言えます。神はこの世のもろもろの王にも、世界のもろもろの神々にも勝利しておられます。それらのすべてをお用いになって、ご自身の救いのお計画をお進めになります。

そののちヨセフは、王の勧めによってエジプト人と結婚し、7年間の大豊作の期間に国中の食料を集めて倉庫に貯蔵させました。【50~52節】。二人の子どもの名前に、ヨセフの信仰告白が言い表されています。エジプトで大成功をおさめ、最高の位につき、幸せの絶頂にいるときでも、ヨセフの信仰は揺るぎませんでした。彼が与えられた幸いのすべては、主なる神から与えられたものであり、彼が自分の手で得たものではありません。ヨセフの生涯は確かに苦労の多い、悩みに満ちた日々でした。その中で、神は彼に憐みを施し、彼の生涯を祝福されました。

 飢饉は世界中に広まり、世界の国々は食糧を求めてエジプトの大臣ヨセフのもとにやってくるようになりました。カナン地方にいた父ヤコブとその11人の子どもたちも、エジプトに穀物があるというニュースを耳にしていました。そのようにして、ヨセフが子どものころに見た夢が、図らずも実現することになるのです。すべては主なる神のご計画です。

 神の救いのご計画は、ヨセフの時代から400年以上を経たモーセの時代の出エジプトの出来事へ、さらにそれから千数百年を経て、主イエス・キリストの誕生へと前進していきます。主イエス・キリストの十字架の死と復活の出来事を経て、その後の2千年の教会の歩みをとおして、さらに前進していくのです。

(執り成しの祈り)

○天の父なる神よ、あなたは天地万物を創造され、今もなお造られたすべてのものをみ手のうちに治め、導いておられます。あなたはまた、永遠の救いのご計画により、全世界の歴史とわたしたち一人一人の歩みをも導いておられます。あなたは時に、わたしたちが経験する試練や苦難をとおして、あなたの尊いみ心を示したまいます。願わくは主なる神よ、どのような時にも、あなたが最もよい道をわたしたち一人一人に備えてくださることを信じ、あなたに聞き従って行く信仰をお与えください。

主イエス・キリストのみ名によって。アーメン。

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